8月の掲示板

8月の「お寺の掲示板」です。1935年生まれ、北九州の老師のご法話から。

伊藤元先生自身の忘れられない言葉の一つは、学生時代に先輩から言われた言葉。「この世に自分より下の人間がいると思うとるうちは、本願は頷けんよ」。「あんときはショックやったねー」と振り返られたことがありました。約60年前の言葉が、今も忘れられんと。忘れないことは、とても難しい。

ですが、認知症で自宅の住所や電話番号も思い出せないお年寄りが、お内仏(仏壇)の前に座ると、本なしで「正信偈」を唱和されたり、若い頃に聞いたご法話の話を雄弁になさることがありました。本当に大事なことを聞いたなら、心のずっと奥底にとどまって、たとえ目先のことを忘れようとも、人生の羅針盤になっているのかもしれません。

賜った経験や言葉を糧に生きていながら、我が物顔で握りしめ、知識を上塗り。そんな聞き方を「得手に聞く」と言います。

ありのままに「聞く」ことによって、自分の殻が破れていく。破れたところから、世界が広がっていくのでしょう。

8月といえば、お盆、帰省、戦争。仏法の響き、ご先祖の声、戦争で亡くなった方々、孤独や不安を抱えて今を生きておられる声なき声に、聞不具足を自覚しつつ、耳を傾けていきたいと思うのです。